2013年度大学院・学部講義
「比較政治」




【授業概要】

 2008年以降の世界金融危機は、グローバルな金融や経済の相互依存によって、国家の政策、私たちの生活のあり方が大きく制約されていることを明らかにしました。グローバル化が進むにつれて、国家の役割はますます低下し、各国の政策は収斂していくのでしょうか。それとも国ごとに異なる選択肢がありうるのでしょうか。

 この講義では、雇用のあり方、家族のあり方、社会保障など、我々の日常生活と密接にかかわる事柄が、どれほど「政治」によって左右されているのかを認識したうえで、将来の社会のビジョンを自ら選択し、政治に積極的に関われるようになることを目指します。

 具体的には、自由主義モデルのイギリス、社会民主主義モデルのスウェーデン、保守主義モデルのドイツ、日本という四つの代表国をとりあげ、(1)雇用、再配分、家族、グローバル化への対応をめぐる政策の違い、(2)各国の違いをもたらしている政治的要因を検討します。これらの知見を踏まえ、将来の日本にどのような展望や選択肢があるのかを考えてみたいと思います。


【学部・学年の指定】

学部3年生以上。大学院生。


【授業の目的・到達目標と方法】

 次の三点を到達目標とします。

 (1)戦後先進国の政治経済の基本構造を理解すること。1970年代から今日にかけての国内外の構造変化と、今日の先進国が共通して直面している政治的・経済的課題を説明できるようになること。

 (2)各国の対応がなぜ異なってきたのかを、比較政治学の概念や理論(政党システム、労使関係、リーダーシップなど)を用いて説明できるようになること。

 (3)日本の将来の進路について、自分なりの意見を持ち、その根拠を説明できるようになること。
 
 一方通行の講義とならないよう、毎回グループ・ディスカッションの時間を組み込みます。また講義時間内に2度の小レポートを実施し、次の講義でフィードバックと進度の調整を行います。


【授業の内容・計画】

 毎回レジュメを配布し、パワーポイントを用いて講義を行ないます。

(1)オリエンテーション

T 戦後政治経済体制の形成

(2)フォーディズムとブレトンウッズ体制
   戦後政治経済体制の特徴を理解する

(3)(4)三つの政治経済レジーム
   先進国の違いをもたらした政治的要因を理解する

(5)日本の政治経済レジーム
   戦後日本のレジームの特徴を理解する
   小レポート1

(6)小レポート講評

U 戦後政治経済体制の転換

(7)ポスト・フォーディズム
   1970年代からの構造変化を理解する

(8)新自由主義から第三の道へ ― イギリス
   なぜイギリスで新自由主義が選択されたかを理解する

(9)社会民主主義の刷新 ― スウェーデン
   なぜスウェーデンで「大きな政府」が維持されて
   いるかを理解する

(10)連帯の模索 ― ドイツ
   1980年代からドイツが陥った困難とその解決策を理解する

(11)失われた20年 ― 日本
   なぜ日本が最も大きな困難に直面しているのかを理解する
   小レポート2

V 課題と展望

(12)労働市場改革
   ポスト工業化への対応が国ごとにどう異なるかを理解する

(13)少子高齢化への対応
   なぜ少子高齢化への対応が異なるのかを理解する

(14)グローバル化と不平等
   グローバル化は先進国内の不平等にどういう影響を与える
   のかを理解する

(15)まとめ
   今後の政治的対立軸と政治勢力の展望を考える


【テキスト・参考文献】

リーディング・アサインメントとして以下のテクストから20頁程度を指定します。

OECD編『格差は拡大しているか』明石書店
エスピン=アンデルセン『福祉資本主義の三つの世界』2001年
大沢真理『現代日本の生活保障システム』岩波書店、2007年
新川敏光ほか『比較政治経済学』有斐閣アルマ、2004年
新川敏光編『福祉レジームの収斂と分岐』ミネルヴァ書房、2011年
ホール、ソスキス『資本主義の多様性』ナカニシヤ出版、2007年
宮本太郎編『福祉国家再編の政治』ミネルヴァ書房、2002年
宮本太郎『福祉政治』有斐閣、2008年
宮本太郎『生活保障』岩波書店、2009年
『ヨーロッパ社会民主主義「第3の道」論集』生活経済政策研究所、2000年


【他の授業科目との関連】

 基礎科目「政治学」「政治史」「政治思想」の内容を踏まえ、より諸外国の政治に焦点をあわせた発展的な内容とします。「政治過程論」とともに受講することで、政治学を体系的に学ぶことができます。

 また「福祉政策論」「社会政策」とも関係があります。


【授業時間外の学習(予習・復習等)】

 毎回リーディング・アサインメントと討議事項を用意し、予習を前提に講義を行います。


【成績評価の方法】

 小レポート(30点) + 平常点(15点) + 学期末試験(55点)の合計による相対評価。

 小レポートは一回の提出につき15点(×2回)。平常点はグループ・ディスカッションの意見をまとめたペーパー1回提出で5点(×3回、不定期)。これらはアサインメントと講義の内容を踏まえている必要がある。

 60点をCの目安とし、C以上は成績が均等に分布するよう調整する。


【成績評価基準の内容】

 到達目標にしたがって、(1)戦後政治経済体制の特徴と転換、(2)各国の政策の分岐をもたらした政治的要因、(3)比較政治からみた日本の特徴、という三点を説明できれば合格とします。さらに各自でより深い知識を得たか、自らの考えを具体的・論理的に展開できているかに応じて加点します。


【受講生に対するメッセージ】

 政治、経済、社会の諸領域を横断する高度な内容ですが、講義とディスカッションをつうじて、一人一人が日本の将来について、自分なりのビジョンを持つことができるよう配慮します。


→ 参考文献リスト